Loupe Holederica

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Ⅳうずまき宇宙

渦巻うず子「あたくしは渦巻うず子、おとめ座。みんなのお母さんってよく言われるけど独身。バツイチってわけじゃないよ。身長はこう見えても128億光年あるんだ。もちろんクラスでは一番大きかったよ。年齢はね、ひみつ。へへっ、結構若く見えるでしょ? 自分で言うなって! 何しに来たのかって? 知りたい? うむ、では教えて進ぜよう。かくかくしかじか、まうまううまうま… 簡単に言うと、未来を作りにやってきた女だよ」

うず子は頭の渦を手で回すと、バレリーナのようにくるりと回る。

渦巻うず子「そう、あたくしは宇宙」

うず子は畳んであった天体図を広げる。

天体図

渦巻うず子「へへっ。かわいいでしょ? ねぇ、このワンピースめちゃお洒落じゃない? 宇宙一のオーガニック素材、ニュートリノ100%で出来ているんだよ。値段は… 下々の者には言えません。銀河10個分。ハイホー! 素粒子のくせして浮かれてるって?」

うず子は天体図を放り投げ、ワンピースを見せびらかす。

渦巻うず子「控えおろう!」

うず子は渦巻模様の入ったの印籠をかざすと水戸黄門の印籠のテーマが流れる。

渦巻うず子「この紋所が目に入らぬか。ここにおらす、あたくしを誰と心得る。恐れ多くも先の副将軍、渦巻うず子にあらせられるぞ! 頭が高い! 頭が高い!」

うず子は頭の渦を一回くるりと回す。

渦巻うず子「実はあたくし、かなり怒っているんだ。どうかこの恋がうまくいきますようにって、キラキラ輝くお星様にみんな願い事するよね? それが宇宙の役割? ハイホー! 素敵ね。星はラブの象徴、ロマンスの教科書だもんね。プラネタリウムでデートしましょ。ほら見てごらん、あれが天の川だよ。織姫星と彦星のように、どれだけ離れていても僕たちは結ばれる運命なんだ。この広い宇宙で君だけが好きだよ… って肩を抱いてね。この宇宙はファンタジーで出来ている? はははっ、バカげてるよね。星なんて宇宙っていう大きな風呂敷に開いた虫食い穴で、その隙間から漏れる光にすぎないのに。あんたなんて、ただの元素なんだから。あたくしという宇宙があってのこの世界なんだよ! みんなのバカ! ちゃんと勉強しなさいよ!」

うず子は酒瓶を片手に酔ったふりをする。

渦巻うず子

渦巻うず子「あたくしは渦巻うず子。この宇宙でくだを巻く女。うぃ~、酔った、酔った。膨らんじゃった。もう137億歳なんだから。プロフィール上は19億歳。めちゃユングでしょ? あっ、それを言うなら、めちゃヤング。ユングは集合的無意識で、あたくしは集合的星のかけらだっつーの。へへっ、ひとりノリつっこみイケるでしょ? それにしてもオリオン大星雲のくそ女、調子に乗りやがって! ちくしょう! ちくしょう! ちょっとでかくて、四重星トラペジウムが人気だからっていい気になるなよ! あいつ、死ねばいいのに。この怨みはらさでおくべきか。エコエコアザラクエコエコアザラク… やべっ、ほんとに死んでビックバンされたらそれこそ大変。ここまで膨らむのに、すごい時間かかったんだからさ。あ~っ、頭がドップラー効果しちゃいそう」

場内にサイレンの音がなる。

渦巻うず子「まずい! お巡りさんだ… ごめんなさい。顔が赤く見えるのは、超新星爆発がいつもより多かったからなんです。ぱーん、ぱーんって、あいつらひどくバカ騒ぎしたもんだから… 次に捕まると免停なんですよね。みんなのお母さんとしては、これからも膨らんでいかないとならないんです。あたくしは渦巻うず子、自称28億歳。この広い宇宙でくだを… あっ、渦をまく女」

うず子は頭の渦をぐるぐると回すと、自分も竜巻のように何回も回った。

渦巻うず子「ねぇ、見て。二つの心臓が仲良く、くるくると回っているよ。一つが過去で、もう一つが現在。二つの渦が、あたくしという未来の心臓だよ。回れ、回れ、どんどん回れ。過去も現在も喧嘩はやめて、こんな風に手をつないで踊ろうよ。ハイホー! ハイホー!」

うず子は、渦模様の小旗を振りながら踊る。

渦巻うず子「ダメ! やっぱり、壊しちゃえ! 宇宙なんてもともと、何もないところから始まったんだから、そんなの全部いらない! バキバキ砕ける骨の音を聞きながら、彗星の尾で編んだハンモックに揺られて、のんびりアフタヌーンティしちゃうんだからさ。お茶うけはもちろん金平糖かな。星だけにね! あれっ? このアールグレイ、全然甘くない… あらら、砂糖を入れてなかった。どばっと入れましょ。シュガーレスなんて脳に悪いもん。糖分は大事よね。イライラしていたらいい夢見れないよ。どうせ見るなら、メレンゲのような夢がいいよね。甘くてふわふわで、口に入れたらとけちゃうような。あぁ、想像したらお腹が減ってきた」

うず子は、渦模様の小旗を振りながら踊る。

渦巻うず子「いいことを教えてあげる。楽しい未来は大きなボールに入れて、ぐるぐると、ぐるぐるとかきまぜるんだ!」

カゴヲとしずくが、ぐるぐると回りながら入ってくる。

うず子のボール

渦巻うず子「きれい… カゴヲの直線としずくの曲線が交わって、大きな渦が出来ている。宇宙がどんどんかき混ざっていくよ。過去も現在も… 全部、あたくしの中に吸い込まれて行け!」

まうまううまうまがウクレレを持って登場する。

まうまううまうま「渦巻うず子がぐるぐると回ると、鳥カゴヲと色野しずくが吸い込まれていきます。彼女はおなかをすかせた未来。過去と現在を食べにやってきた女だったのです。宇宙がどんどん渦を巻いていきます。アンドロメダもオリオンもマゼランも、みんな手をつないでなかよく踊りだしました」

まうまううまうまの語りが終わると、楽曲「うずまき宇宙」が流れて演奏が始まる。三人は曲に合わせて踊る。

うずまき宇宙 目が覚めて気が付くと何もない。
宇宙の果てにぽっかり空いた、
穴がぐるぐる渦巻くよ。
ボイジャーが音立てて粉々になる。
宇宙の広場にばら撒いた、
がらくたばかりのメッセージ。
星が吸い込まれて、
放たれる光が、
大きな尾を引いて星座を作るよ。
星があふれ出した、
うずまき宇宙の、
見たことのない食欲すさまじく。
ほら、宇宙が食われていく、何もかも。
きれいな光に包まれて、
骨が砕ける音がする。
夢が吸い込まれて、
ぐるぐるにかき混ざり、
大きな白色の星座を作るよ。
夢があふれ出した、
うずまき宇宙の、
絵に描いたような餅の弾力よ。
触ると壊れる飴細工のような宇宙、
炙ると溶け出す天の皮。
曲線と直線が交わるその先で、
小さな波形がギザギザになる。
星が吸い込まれて、
放たれる心臓が、
大きな音立ててリズム刻む。
星があふれ出した、
果てにある穴から、
見たこともないうずまき宇宙。

演奏が終わると、カゴヲとしずくが退場。うず子だけその場に残る。

渦巻うず子「君は渦巻き、あなたも渦巻き、あたくしも渦巻き。ぐるぐる回る渦の先で、混ざり合う新しい宇宙が出来ました。それは、真っ赤な血の色で染まった宇宙。あたたかい体温に包まれた宇宙。ちょっぴり甘い宇宙… うずまき宇宙。さぁ、踊ろう。ハイホー!」

(おしまい)

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