Loupe Holederica

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Ⅲ RGB

鳥カゴヲ「うぅ! 心が焼けるように熱い。七色の雨が僕を溶かしてしまいそうだ。あぁ…」

カゴヲは暴れながらマントを脱いだ。カゴヲの白いシャツの胸元にはハートの絵が描かれている。しばらくして、傘をさしてトランクを持ったしずくが中に入ってくる。

色野しずく「おかえりなさい」

鳥カゴヲ「しずく? ここは?」

色野しずく「今」

鳥カゴヲ「ずっと幻の中で息をしていた気がする… あっ、僕の心臓を見かけなかった? どこかに落としてしまったみたいなのだけど、見つからないんだ」

色野しずく「オウムなら森へ飛んで行ったわよ」

鳥カゴヲ「元気に暮らしてくれるといいな」

カゴヲは深呼吸しながら話を続けた。場内に静かな音楽が流れる。

鳥カゴヲ「曇天の夜空に降る七色の雨。それは君が落とした夢の続きだ。しずくは月の光を受けて、空に涙の形を映す。重なり合う涙のグラデーションは、モダンな幾何学模様のようだ」

色野しずく「どうか、壊れた世界のかけらを探さないで」

鳥カゴヲ「ゆっくりと、ゆっくりと落ちる涙の先は、逆さまに映る街の灯り。七色のしずくはネオンの光と混ざり合い、マーブル模様の君を作る」

色野しずく「雨降る夜には、鉄の傘を忘れないで。色のしずくは毒だから」

しずくはカゴヲに傘を手渡すと、外に出ていく。BGMが終わる。しずくは床にトランクを置く。

色野しずく「カゴヲのオウムは、私にとてもなついていた。私の顔を見ると、嬉しそうに体を揺すって頭をぺこりと下げるのよ。かわいくて、かわいくて、頭を何度もなでていると、いつの間にか気持ちよさそうに眠っちゃうのよね。ふふっ。あっ、知ってた? オウムは、本当は人まねがあまり得意じゃないんだって。オウム返しって言葉があるのに不思議よね。うまくおしゃべりが出来なくって、こっそりひとりで練習しているの。負けず嫌いで、何だか私みたいって思っちゃった…」

しずくはゆっくりと天を仰ぐ。

色野しずく「だからカゴヲのオウムが飛んだ日、私はたくさん泣いた。悲しくて、悲しくて、気が付くと目から七色の涙があふれ出していたわ。何これって触ってみたら、むにゅっとしてとても気持ちが悪かった。おかげで、私の顔は絵の具を混ぜたようにぐちゃぐちゃ」

しずくは顔に絵の具を塗りたくる。

色野しずく

色野しずく「色が混ざり合うって不思議な感覚よね。白と白を混ぜても白。黒と黒を混ぜても黒。でも、赤と青を混ぜたら紫になる。青と黄色を混ぜたら緑。混ぜ合わせる絵の具の色と量を少し変えるだけで、まったく違う色が出来上がる。同じ色を作ろうとしても微妙に違う。味っていうのかしら? そこがいいのかも知れないわね。色には無限の可能性があるの」

しずくは顔の絵の具をはがし、置いてあるトランクを開ける。トランクの中には服が詰まっている。

色野しずく「私は色鮮やかなこの世界が大好き。花や草や木、虫や鳥たちなど全ての生き物に色がある。それだけじゃない。空や海や地面、家や雑貨、そして私の気持ちにも。朝起きた時、今日の私は何色の気分かな? そう考えて、着る服を選ぶことにしているの。はじける気分の時は赤い水玉のチュニック。ふわっと宙に浮きたい気分の時は白いワンピースね。やさしい気分の時は緑のカットソー。大騒ぎしたい時は花柄のスカート。人を殺したいときは… 青いラメ入りのドレスかな。あっ、たまにだけどね。もちろん出かける場所や、会う人によっても色は変えるわ。お化粧だってそう。決まりなんてないの。だって、いつも同じなんてつまらないじゃない? 人生は変幻自在よ」

しずくはトランクの中の服を取り出して踊り始める。

色野しずく ルンルンルンルン!
嬉しいときも、
腹が立つときも、
カラフルに歌おう。
草木も踊るよ常磐色。
ルンルンルンルン!
悲しいときも、
楽しいときも、
カラフルに歌おう。
おしゃれに着こなす浅葱色。
ルンルンルンルン!
愛おしいときも、
憎らしいときも、
カラフルに歌おう。
流れる時間は茜色。

しずくは即興で歌をうたう。

しずくのハミング

色野しずく「今を生きるって素敵よね。降ってくる気持ちを受け止めて、自分の色を作るの。私はその感覚を大切にしたいと思っている。明日はどんな色の自分? なんて、考えたこともない。だって、寝て起きてみないとわからないから」

しずくは踊るのをやめて、その場に立ち止まった。

色野しずく「あの日、カゴヲはたくさんの言葉を持って鳥かごの中に消えた。言葉はお守りのような甘い媚薬。他者の時間の中では都合の良い免罪符。でも、色は他者の時間に溶けると化学反応を起こして毒に変わるわ。色と言葉は流れる時間の中で、決して交わることが出来ない関係」

しずくはトランクから涙模様のワッペンを取りす。

色野しずく「私は自分の時間の中で、キャンパスの色を自由に塗り替えていく。あなたが好きだった色も、私が好きだった色もどんどん変わっていくのよ」

しずくは帽子に涙模様のワッペンを貼っていく。

色野しずく「色は嘘をつかない。でも、言葉は…。あなたの中でどんどん膨れ上がって、パーンと破裂したわ。きれいに舞い散るかけらを見ながら私は思った。それは本当の私? 私は泣くことを覚えた。目から流れる色のしずくは、私の今を映す。世界はこんなにカラフルだよって… 私は踊る。色のしずくを浴びて踊る。ねぇ、知ってた? ヘビは自分の毒じゃ死なないんだって。私も同じ。だから、私の部屋には鳥かごがないの。だって、私は毒だから」

渦巻うず子が、ものすごい勢いで現れる。頭にうずまきのカチューシャをつけて、星模様のワンピースを着ている。

渦巻うず子「しずくの未来はどっち?」

色野しずく「どっちでもないわ。ただの今の続き。私が暮らしているこの世界の空は、朝昼晩と何度も色を変えるのよ。そして、その時間に合わせておなかが減る。空腹って罪よね。でも、それが生きる源。そろそろ夜になるのね…」

渦巻うず子「しずく、泣いている?」

色野しずく「うぅん、おなかが減っただけ」

渦巻うず子「あっ、今日のしずくの色は、晴れた空の虹の色だね」

色野しずく「ふふっ」

カゴヲが息を切らせながら現れる。

鳥カゴヲ「大変だ! 存在しない過去がたくさん出てきた!」

渦巻うず子「存在しない過去は、これから生まれる未来が抹殺したよ」

しずくは壁に貼られた地図を剥がしはじめる。

渦巻うず子「未来は腕のいいスナイパーさ。心配しなくても大丈夫。過去は穏やかな海に浮かび、未来は根の生えた空を飛ぶ。そして、今は、たくさんの色が溶けて流れるカラフルな川だね。さぁ、着替えて。新しいあいつがやって来るよ」

鳥カゴヲ「何か降ってきた」

渦巻うず子「百年分の色のしずくだよ」

百年分の色のしずく

まうまううまうまがウクレレを持って登場する。

まうまううまうま「色野しずくの前に突然現れた、頭に渦巻を付けた奇妙な女は一体何者なのでしょうか? そして、過去の国から無事生還した鳥カゴヲ。三人は、現在を洗い流す七色のしずくを浴びながら、暗黒の宇宙の中に消えていきました」

まうまううまうまの語りが終わると、楽曲「RGB」が流れて演奏が始まる。三人は赤、緑、青のライトを持ってゆっくりと踊る。

RGB 君が乗る赤いアドバルーン、
自由に飛ぶよ、不自由な宇宙を、
ゆらりゆらり浮かぶ仕組みは、
君が生きる形に似て。
君が歌う緑のガムマシーン、
自由にのびる饒舌な夢で、
ぶらりぶらり振り子のように、
君が生きる世界に似て。
赤、緑、青、三原色の、
赤、緑、青、絵の具の君。
君が眠る青いカプセル、
自由に踊る無意識のカーニバル、
さらりさらりかわす現世の、
君が生きるサークルの中で。
赤、緑、青、三原色の、
赤、緑、青、絵の具の君。

演奏が終わると、カゴヲとしずくが退場。うず子だけその場に残る。場面は宇宙に変わる。

(うずまき宇宙へつづく)

◀鳥かごから飛び出すオウム
うずまき宇宙▶