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銀河鉄道の夜の音楽

ライナーノーツ  ヨコイマウ

 “銀河鉄道の夜の夜の音楽”CDに収録されている全16曲についてここで解説する。銀河鉄道の夜の各シーンにおける、リズムや音色、メロディーとの関係性を自分なりの解釈で書いてみた。

 自分にとってお芝居は、リアルタイムの時間軸で進んで行く“シーン”を楽しむものだと思っている。舞台セット、空間の光の濃度、そこに立つ役者、音楽、それらがミルフィーユ状に重なって一つのシーンを構成し、観客の目や耳に入りひとつの世界が作り上げられる。その世界を際立たせるために、シーンと時間軸になくてはならない音楽を作らなければならないと思った。曲がないシーンにも無音という音楽がある。それは時に効果音だったりもする。そういった意味で、今回の銀河鉄道の夜は映画に近いお芝居だったのではと思っている。

① 天川 4/4拍子
 先生のふりをしている男、天川が、嘘の授業が行われている真昼の教室で、自作の宇宙模型を広げる。教室は暗闇に包まれ、無数の星座たちが揺れるように漂う。これから始まる、銀河の旅へのプロローグ。くるくるまわるオルゴールのような音色は、人が生きるこの世界を象徴し、背後ではじける電子音は、銀河の扉を開こうとするプラズマ、そして予知夢だ。幻想的に広がるエコーが、天の川を映し出す。銀河鉄道の夜の幕開けはこんな音楽。

② 活版所 7/8拍子
 条盤子が働く活版所で、ぱたぱたとまわる輪転機。そのリズムに合わせて、黒十字のような覆面の労働者がつっかかりながら踊る。彼らはこの世界の見張り番だ。ピンセットからこぼれ落ちる活字がぶつかりあう音は七拍子。ちょっとだけズレはじめた世界。何かがおかしい。活版所と外の世界をつなぐ活字で出来た壁はひとつのコミュニケーションを形どり、その代償は角砂糖へと姿を変える。

③ トシ子 7/8拍子 [試聴する]
 320号室の扉が開く。不安定な空気のリズムの中で、トシ子が青井葵の元へかけ寄りだぶだぶの服を剥ぎ取る。あめゆじゅとてちてけんじゃ。320号室はトシ子の子宮なのかも知れない。そこで聞こえる心臓の鼓動は七拍子だ。ピアノ線でつながった白い骨がきしみ、ぶつかりあい奏でる音楽。骨と骨のすきまを流れる血液の音はどこか懐かしい笛の音。少しづつゆがんでいく三次元の世界の片隅で、トシ子が口ずさむ音楽はカラダの奥から聞こえるメロディ。

④ ケンタウルス祭 6/8拍子
 ケンタウルス祭の夜、青井葵は人間らしく正しい鼓動で叫んだ。雨雪を降らせてやれ。相も変わらず世界はいいかげんに続いているのだ。黒い影が祭りのリズムに合わせて踊る。ほら、生きているよ、と。320号室と世界がつながり始めた夜の出来事。肥大化する宇宙の遠くから聞こえる音楽はどこか懐かしくかん高い。太古の世界の置き土産のようだ。

⑤ ふくろう時計 4/4拍子
 秒針のリズムにあわせて、ほーほーと歌うふくろう時計。担当はボーカルだ。銅の人馬時計は大きな振り子を持っているからとドラムにさせられた。ガラスの時計はその繊細さを買われピアノを弾く。彼女の弾くピアノはなかなか力強い。星座早見時計はぼんやり屋さんなので何も出来ない。ゼンマイが切れるまで秒針のリズムをならし続けるメトロノームだ。

⑥ ケンタウルス祭 6/8拍子
 条盤子、らっこの上着が来るよ。トシ子と噛羽根瑠子は、烏瓜の赤い灯りを条盤子の頭上にかざす。ケンタウルスの祭りのはじまり。星の煌めく粉が宙を舞い機械的リズムを打ち鳴らす。『ケンタウルス露を降らせ!』人々が祈願する言葉は時には凶器だ。条盤子の心臓の鼓動が少しずつずれていく瞬間、世界は真っ暗闇に包まれる。

⑦ ほしめぐりの歌α 4/4拍子
 天の川がよく見える小高い丘に天気輪の柱があらわれた夜は、銀河鉄道にのるチャンスだ。耳を澄ませてごらん。遠くから汽笛の音が聞こえたら、丘の上まで駈けて行くといい。そこは銀河ステーション。太鼓の音とパルスの歪んだノイズのリズムに合わせて、列車はゴトゴトと走り出す。行き先は空の果て宇宙。ほしめぐりの旅のはじまり。

⑧ プリシオン海岸 5/8拍子
 プリオシンとは新第三紀のうち鮮新世と呼ばれる時代のことで、プリシオン海岸は白鳥の停車場の先にある銀河の海岸。120万年前のクルミの化石が採掘出来ることで有名だと、学士は自慢げに話す。宇宙の海岸の砂浜は細く尖った三角錐の集合体だ。学士の頭はそれを象徴するかのようなパンクヘアー。つるはしを振り上げ、ピアノのような音を鳴らし化石を掘る。この海岸で聞こえる波の音色は深く幻想的だ。青く光る鉱石や化石がホログラムのように半透明の水面から見え隠れする。

⑨ 鳥捕り 4/4拍子
 赤髭が鳥をまとってやって来る。甘いお菓子の誘う混沌。男は『はざまの世界』からやって来た菓子職人ハンタードレッド。この列車の秩序を平均化するマジックをもっている。本来、銀河鉄道の旅は無秩序であるのが正しい。無意識をつなぐ物語にも似た、列車のカタチをした入れ物が銀河鉄道だとも言える。幻想四次空間で起こりゆる一コマに、正気の人間はこう言うだろう。「世界は狂っている!」と。さて、こんな空間に赤髭は鷺のお菓子を持ち込んだ。甘美な麻薬、魔法のような食べ物。「線路は続くよ、どこまでも♪」この歌のように、銀河鉄道の旅が、明るく楽しく無限に続く訳ではないことを十分知ってたからだ。人間の程よいリズムを保ち、無秩序をファンタジーに変えるトリックスター。

⑩ 春と修羅 9/8拍子
 有機交流電燈の青い光の中央で、青井葵と天川は酒を酌み交わす。車両にもよく似たカタチの薄暗いその空間は、三次空間と四次空間をつなぐトンネルのようだ。ジリジリと不安定に光るフィラメントのまわりを泳ぐゴースト。いいちこによってぐるぐるまわるのは人ではなくココロだ。改札鋏のパチンという合図で消えてしまう魂の因果律。

⑪ タイタニック 5/4拍子
 氷山に衝突して沈んでいく船で聞こえるのは、客室で鳴り響くサイレンと荒れ狂う本能の歌、そして破裂音。白く乱れる大波にのまれ沈んでいく小さな世界で、ふと立ち止まり天上を見上げると、キラキラと輝く雨露が静かに降り注いでいる。宇宙は巨大な如雨露だ。獏のように人々の夢を食べ、そして無に返す。星は宇宙が濾過しそこなった夢の残留物なのかも知れない。

⑫ 賛美歌320番 3/4拍子
 人は生きている時に、その最後に安息の終着駅を夢見る。それは思想が作り出した実体のない世界、虚像の国。天国、極楽など呼び名は宗教によって様々だが、それらは人々のココロが作り上げる人生最大のワンダーランドだ。そこに行くのだと信じることによって、安心を手に入れることが出来るのだ。ゼロとイチが作り出す規則正しいリズムが人間の鼓動をなぞる。ワンダーランドへ続く階段で聞こえる音楽は、ウェンディ・カルロスのスイッチト・オン・バッハがよく似合う。

⑬ 人形劇 7/4拍子
 『いまこそわたれ、渡り鳥』針簿手の人形小屋で、オーケストラの指揮者のような人形が鳥を誘導する。鳥の群れは星の粉を降らせながら、7:4の割合で現れてはまた消える。銀河はゼンマイで動く大きな玩具だ。土星の輪をぐるぐると回せば、360度を1年かけてゆっくり回る。そして、ありとあらゆる物語がそこにはつまっている。

⑭ 家路 4/4拍子
 アントニン・ドヴォルザーク『新世界交響曲』第二楽章からの編曲。アリゾナの夕暮れ時、トウモロコシの作付け・収穫の儀式でホピ族のたたく太鼓の音が聞こえる。時間と距離を超えて銀河の果てまで届くリズムは、蠍の火がチリチリと燃える音にとてもよく似ている。お家へ帰ろう、無へ帰ろう。

⑮ ほしめぐりの歌β 4/4拍子
 ケンタウルの村の見世物小屋。星座で出来た奇形動物の大サーカスがそこにある。青くきらめく星たちのダンス。人間の鼓動で歌えよ踊れ、宇宙が作る万能のカーニバルへようこそ。

⑯ さよならカムパネルラ 4/4拍子 [試聴する]
 宇宙を広大な母性と例えると、ぐんぐんと進む銀河鉄道はとりわけ父性であり、その中を泳ぐ条盤子は子の象徴である。そして、友達との別れは母性からの個の確立を意味している。父性と母性の両側面を持つ青井葵は条盤子にとってはファリック・ガールであり、無意識の欲求が作り出した象徴にすぎないのかも知れない。

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