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銀河鉄道の夜の音楽

銀河鉄道の夜の音楽について  ヨコイマウ

 劇団コヨーテ第三回公演「銀河鉄道の夜」の台本を主宰の亀井くんから渡されたのは、雪がとけて間もない2013年5月のこと。公演は11月末を予定しているという。制作、稽古を合わせて約半年。長丁場のプロジェクトになりそうだ。亀井くんからは「音楽はまうさんの自由に作っていい」とだけ言われた。劇団コヨーテ第一回公演「全身SWEETS 君と雨に生きる」にも音楽を担当させてもらったが、その時は、役者が演奏参加する生演奏のお芝居だった。今回は、それとはまったく違うやりかたで音楽を作ってみようと思った。

 銀河鉄道の夜は誰もが知る宮沢賢治の童話作品だ。ジョバンニがカムパネルラと銀河鉄道の旅をする物語を亀井君が脚色した。二人は星めぐりの旅の中で様々な人と出会い、彼らの人生が投影された幻想四次の青い世界を楽しむ。そして、生きる意味について考えることになる。銀河鉄道は天上へ死者を運ぶ列車だ。時に、生きている者や死を迷う者、はざまの世界で暮らす者も乗る。車中は混沌であふれている。甘いお菓子やリンゴの匂いと場末の酒場の安いアルコールの匂いが交ざり合い、荒れた海に踊る白い波をも投影する銀河で出来た箱庭。そんな世界を表現するならば、生演奏では出来ない奥行きのある音楽を作る必要がありそうだ。

 とりあえず、台本から思い浮ぶイメージを乱暴に羅列してみることにした。「地上から天上へ、そして宇宙」「生者と死者が行き交う閉じた部屋」「不安定な気持ちと楽しみの扉」「迷いや嫉妬の中で流れる時間とリズム、奥行き」これらのワードに当てはまるような音楽はどんなだろう?ふと思い浮かんだのが、電子音と生楽器が交錯する変拍子のノスタルジックな音楽。電子音には死者を、生楽器には生者を、変拍子に不安定な気持ちの変化を、二拍子や三拍子のリズムには楽しさを象徴させて音楽を作ると面白そうだ。そもそも、拍子は人間が動くリズムと密接な関係にある。てくてくと歩くリズムが二拍子、心臓のどっくんどっくんどっくんと打つ鼓動が三拍子に似ているため、人は二拍子や三拍子の音楽を聴くと安定した気持ちになれるらしい。

 銀河鉄道の夜の物語の根底には、宮沢賢治の持つ日本的な感覚が見え隠れする。それは、あきらめにも似た複雑な気持ちの変化とはかなさが入り交じった、侘び寂びに通じる感覚。その感覚を音階としてイメージした時に、一番しっくり来たのがヨナ抜き音階だった。ヨナ抜きは四七抜きとも表記され、西洋音楽の長音階に当てはめたときに、主音(ド)から四つ目のファと、七つ目のシがない五音音階(ドレミソラ)のことである。いわゆる和風の音階だ。アンデス民謡のどこか懐かしいメロディにもこの音階が使われている。ヨナ抜き音階を効果的に使って楽曲を作れば、銀河鉄道の夜の物語の持つノスタルジックな深みを表現出来そうだと思った。

 CDに収録されている楽曲は、劇中で使われていたものとは若干違う構成やアレンジになっている。お芝居では、役者、衣装、舞台美術、照明、音楽がひとつになり、はじめて世界が構築されるため、引き算のアレンジで作られているが、サウンドトラックとして音楽だけを聴いてもらうにあたり、足りない部分を付加したアレンジに作り直した。